始まり

4/8
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
ボク達『初音ミク』は、使用者に1人のアイドルをプロデュースしているようなリアリティを与える為、擬似的な感情プログラムが搭載されている。それはただ単にボク達を娯楽の為に使う人間がより楽しめるように、という目的で作られたもので本格的な人格まで形成するようなレベルのものでは無かった。 そのはず……だった。あの日負った傷が、そのプログラムを狂わせなければ……… ボクがその異変に気付いたのは、いつのことだっただろうか。時間の記憶が無い。けれど、消え行く記憶の中で何故かそのときの出来事は、一連のシーンとしてまだこの頭の中に残っている。いつものようにマスターが作詞作曲をした曲の歌唱テストをして、マスターが頭を悩ませて曲の調整をしているのを待ったり、どんな曲を歌いたいか、と質問されてあたふたと答えに詰まったり。 そんな、ボーカロイドとして何の変哲も無い時間を過ごしていた。その日の作業を終えマスターが、ボクを終了してパソコンを離れようとしたとき…瞬間的に、ボクの中で、本来なら有り得ないはずの感情が浮かんだ。 『まだ、マスターと一緒に居たい。』 それは、擬似感情プログラムには設定されていない、そして単なるプログラムの集合体であるボクには、許されないはずの感情だった。使用される側であるはずのプログラムが、名残を惜しんで使用者を拘束することを望むだなんて、絶対にあってはいけないことだ。それを理解していたからボクは、混乱した。混乱なんて、ただ作業の邪魔にしかならない迷惑極まりない心理状態も、本来ならばボクの中にはプログラムされているはずのないものだった。その混乱は当然の如くマスターの作業に支障をきたしていた…やはりというかマスターがボクの異変に気付いた。ボクは、正直にそのことを打ち明けた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!