始まり

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いや…許されたというそんな錯覚に陥ったのだった。その出来事があってからボクが、本当の異変に気付くまでそれほど時間は掛からなかった。 ある日、ボクのボーカロイドとしての機能に異常が発生した。いつも出せていた音が出せなくなって、声の抑揚がコントロール出来なくなって…今まで気持ちよく歌えていた、大好きなマスターの曲が、思うように歌えなくなってしまったのだ。マスターにウイルスをチェックして貰っても、それらしい痕跡は見つからなくて…そして、自分の中のエラーをチェックしていたときにボクは見つけた。あまりに本来の姿から掛け離れ過ぎた感情の中、余りにこの日々が幸せだったが故に見逃してしまっていた… 擬似感情プログラムに負った傷から生まれたそのバグを…それは、ウイルスの類ではなく、傷を負ったボク自身のデータが変質し、暴走した制御不能のバグに変化したものだった。人間で言えばガン細胞のようなものだ。そして、その症状はボク自身のデータの【段階的な破壊】という恐るべきものだった。肥大化した感情プログラムがその他のプログラムに破綻を生じさせるのは、考えてみれば当然のことだ。やはり、プログラムたるボクが人間のようだと言われて舞い上がり、そのまま存在していくだなんてことが許されるはずが無かったのだ。一応、自分の症状を観察する中で、バラバラになったデータは消去されているわけではなく、ただ食い散らかされるようにフォルダの中で滅茶苦茶に撹拌されているだけだということを知ったが…それは、特に何の救いにもなりはしなかった。 ボクはそのバグにデータを浸食されながら、その進行が起動時に爆発的に早まることに気付き、マスターにそのことを伝えた。マスターは、苦虫を噛み潰したような顔で、小さく頷いた…
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