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僕が通う高校には、かぐや姫がいる。
君は、かぐや姫と聞いて何を思い浮かべる? 竹? 月? その容姿?
けれども、彼女を一目見た限りではかぐや姫、とは思わないはずだ。
僕だってそうだった。
*****
その日、スポーツテストの結果が印刷された用紙が配布された。
「おお! お前やっぱりすげえな。
部活もやってないのに、どうして学校で一番なんだ?」
後ろの席のやつが、僕の用紙を覗きこむ。
「さあ?」
というしか他にない。なんで、と言われても、ね。テストを受けた結果がこれってだけ。
スポーツに息を切らして自分を追い込むマゾな趣味は持ち合わせていないし。
用紙を二つ折りにして、鞄の中にしまおうとしたとき、
「日下部千裕!!」
突然。本当に突然。
僕は名前を呼ばれた。しかも、教室の窓が割れんばかりの大声で。(というか、もう、奇声の領域)
声は、教卓の上からだった。
見ると、女子生徒。
小麦色に焼けた肌、短い黒髪、きりっとした目元と、よく通った鼻筋は中性的で、真一文字に結ばれた唇は、彼女の意思の強さを表しているよう。
長く細い手足。……しかも、短いスカートから下着丸出し。
ミスユニバースでも通用する容姿だな、と思ったってことは、置いておく。
問題は、そう。
教卓の上で仁王立ちしている初対面の彼女に、なぜ、名前を叫ばれたのか、ということ。
「お、おい、かぐや姫だぜ」
後ろの席のやつが、そう、呟いた。
かぐや姫?
……家具屋姫?
家具屋の娘か。
混乱を極める頭の中で、無理矢理そう納得しようとしていると、彼女はまた叫んだ。
「日下部千裕!!
これから私が出す課題をクリアしたあかつきには――」
家具屋の娘というか、変人だ。あんなところに立って、恥ずかしげもなく下着を見せている女は、露出狂以外の何者でもない。よって、変人の言葉に耳を貸してはいけない。
そう心に誓い、無視を決めようとしたが。
「私の伴侶にしてやろう!!」
「は!?」
僕は、早くも、その誓いを破ってしまった。
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