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「あ゛ー凶作だ凶作。今月の返済日が今日だってのに」
街中で自身の茶色い髪を掻きながらしゃがみ込む少年を怪訝そうに視線を向けながら通り過ぎて行く人々。
「いっそ桜を連れてバックレるか」
それもその筈、昼間から間違いなく補導されるであろう年の若さでスーツを身に纏い、発狂しているのだから。
よくよく見れば、中々端正な顔立ちをしているのだが陰気な雰囲気を漂わせているため、見事にその容姿をくすませている。
ネクタイを乱暴に取り去ると、少年はボソリと吐き捨てた。
「とりあえず戻るか」
おもむろに立ち上がると、覚束(おぼつか)ない足取りで歩き始める。
『春夏秋冬(いちとせ)芸能事務所』
窓ガラスには古めかしくそうかかれ、周りのビルと比べてもこじんまりとした建物に目もくれずに入っていく。
「アキ兄さん、お帰りなさい。また駄目だったみたいね」
漆黒でセミロングほどの艶やかな髪をした、色白の少女がお茶を煎れながら、少年を出迎える。
「全っ然ダメ!!原石のような人がまるでいない。俺の容姿以前の問題だ」
少年は既に崩れ気味のオールバックにしている髪を崩すと、ネクタイをソファに放る。
春夏秋冬(いちとせ)昶。15歳。
11の時に両親を亡くし、形見となった春夏秋冬芸能事務所を代表取締役として切り盛りしてきた。
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