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「年を上に見せるために髪も身なりも頑張って整えているのにね」
「やっぱ限界かねぇ。こんなガキンチョが社長じゃあ」
「……それでも兄さんは自分の身を削ってきちんと仕事を取ってきてたじゃない。それなのに」
「落ち着けよ、桜。取ってきてはいたが、この世界じゃ顔の利かない三流事務所が取れる仕事なんて限られてるし、収入も微々たるもんだ。それに年下に雇われるのも気分悪いしな」
昶はズカッとソファに座ると、桜と呼ばれた少女から受け取ったお茶を飲む。
桜は昶の一つ年下で唯一無二の妹である。
昶同様、整った顔立ちをしていて、この事務所に所属している唯一のモデルなのだ。
兄の言ってる事は正論なのだが、それでも納得いかなそうに唇を尖らせる。
「だからといってこの状況はちっとばかしマズイよな~。情けで居続けてくれた菖蒲(あやめ)さんも辞めてさ」
「母さんの親友で私達の事、四年間も養って下さったもの。菖蒲さんにはもう迷惑かけられないわ」
桜はお盆を抱えながら、昶の机を挟んだ向かい側のソファに座った。
「どんなに頑張っても、世の中は金と地位。母さんも父さんも菖蒲さんもよく俺達を養えてたよな。いや、母さんと父さんは借金残していったけど」
――今では金利で莫大に膨れ上がっちゃって……。
昶は溜め息をついた時、扉をドンドン叩く音が響いた。
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