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「俺は当時小学五年生でしたからね。まあ今となっては越しちゃってますけど」
昶に厭味で返され「元気そうだな」と豪快に男は笑った。
「で――、金の用意できてんのか?」
一変、同伴してきた青木さえ半歩下がるほどの刺すような雰囲気を出す。
だが昶は臆する事なく口を開く。
「それが、しがない事務所で金を工面するには中々骨が折れましてね……」
「身体でも売って、金持ってこい。そろそろ中坊卒業するような野郎に甘くなんかしねぇぞ」
「内蔵を、ですか?それは困ります。あ、妹に手を出したら……」
今まで浮かべていた上っ面だけの笑顔が消え、男に負けず劣らずの気に青木は背筋を凍らす。
そんな青木を知ってか知らずか男は大袈裟に溜め息を吐いた。
「何の勘違いしてんだ?オメー自身で稼げや。アイドルにでもなってよ」
「はあ、そう言われましても近頃どうにも不作で………………………って、はっ!?」
「このまんま人見つからなかったら妹の稼ぎだけでやってく気か?それこそ妹チャンが可哀相だろ」
「確かに俺のバイト代だけでは足りない。でもアイドルって柄じゃあ」
「オメー、ちゃんとすれば案外イイトコいくと思うぜ。なあ歌うたう気ねぇか?」
男の突然の誘いに昶は頭がついていかずただ困惑するのだった。
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