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†††
(冗談じゃねぇっ!婚約だと!?)
―…本当に冗談ではない…。
そう考えて、立ち止まる。
勝手に決めた両親達に腹が立って、何も言わずに部屋を飛び出したはいいが…。
精霊達と友人だと!?そんな話があり得るか!!
…………とは思う…が、それを否定出来ない自分がいる。
なぜなら。
「知っていたなソリア」
『すみませんねぇ若、クジャータ様に口止めされていたんですよ』
リオウが忌々しげに名を呟くと、ふわりと姿を現す。
黄色い目と髪を揺らし苦く笑う男…正確には男の姿をした…精霊の一人。
そう…四季の中で春を司る、四季精霊の『ソリア』だ。
眉根に皺を寄せて自分を睨みつける新しい王の変わらない姿にソリアはまた苦笑し、慣れ親しんだようにリオウに近づいた。
「俺はてっきりお前だとばかり…」
『ははは、…まぁ…前王の代に舞台に上がったのはイーリーでしたからねぇ
…だけど若 これは姫さんが生まれたときから決まっていたことなんですよ』
「姫さん?」
『ん…あぁ…クジャータ様とフェイラム様のご息女です』
こほんとひとつ咳払いをしたソリアは罰が悪そうに説明しだした。
『姫さんが今まで姿を現さなかったのは精霊界で暮らしていた為…
そして若が即位する日の為だけにあの舞を教わったそうですよ』
「舞…」
そう言われてリオウは、舞台に立っていた女の姿を思い出した。
太陽の光を浴びてオレンジ色に輝く髪。舞い踊る姿は軽やかかつしなやかで…細い腕を伸ばすたびにひらりと飾り布が翻る。
『俺たちは後方で楽曲を…
……若……?聞いてます?』
ソリアの声にリオウはハッとした。
頭の中に浮かんだ女の姿をすぐさま打ち消して声を荒げる。
「それにしたって、冗談じゃねぇ!!こ、こっ…婚約なんて…俺は聞いてないぞ、あんな…ワケのわかんねー女なんて!」
リオウは自分を王族だと認識しているから、そりゃいつかは政略の道具として贈られた女を抱く覚悟くらいはしていたが。
「失礼ねっ!!あたしだってそんなの聞いてなかったわよ!」
…そんな考えは、突然飛び込んできた声によって遮られたわけなのだが。
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