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空が、青い…
あ、飛行機雲…あれって、どんな仕組みでできるんだっけ…
がやがやと響く喧騒のど真ん中で、あたしはぼんやりとそんなことを考えていた。
「ねえ、それ何? 売ってるの?」
声をかけられ、我に返る。
視線を戻すと、サラリーマン風で30代前半の男の人が、でんとあたしを見下ろしていた。
ちょっと脂っこくて まなざしが冷たい。
あたしの苦手なタイプだ…見るなり、そう思った。
「はい。ぜひご覧になってください」
言い終わらないうちに、どすっと座る。
その人は、人差し指であちこちつつくようにして、商品を見はじめた。
「何か 微妙なブランドだ… しかも、シガレットケースだけなんだ… 微妙だな…」
これだって、あたしに言っているのか ひとり言を言っているのか、よくわからない。
繁華街の裏通り公園。
ここで商品を広げていると、こういうお客さんは少なくなかった。
しかも、この手の人は、冷やかすだけで たいてい買ってくれない。
さんざん愛嬌を振りまき、けなされても笑って、そして何の収穫にもつながらなかったとき、あたしはいつも妙な脱力感を覚えた。
世界が明日で終わる… たとえばそう宣告されたら、ほとんどの人が陥るであろう感覚に、きっと限りなく似ている。
どうせこの人も… 考えかけて、気を取り直す。
いやいや…今日、初めてのお客さんだ。
大事にしなくちゃ。
今日こそ、家に帰らなくちゃ…
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