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「いろいろありますよ。他の商品も見ますか?」
できるだけ さわやかに声をかける。
「ふうん… 見せて」
あたしはシートの上に広げていた商品を片手で寄せると、空いたスペースにいくつかの商品を並べた。
メガネケース、ミラー、名刺入れ…
「うわー… これ…」
見たとたん、男の人の表情は急に変わった。
「いくらなの…?」
あたしは、父に言われたとおりの言葉を唱える。
「これは、2万8千円。こっちは4万円。これだと、1万9千円です」
「ちょっと高いなあ。
だいたいさー、これ本物なの?
こういうところで売っているからには、わけありなんじゃない?
だって、ブランドものってたいてい皮だろ?
ここにあるのは、缶ばっかりでさ…」
きらりと目の奥を光らせ、うかがうようにあたしを見ている。
さあ、ちゃんと言わなくちゃ…
教えられたとおり、にっこり笑って言わなくちゃ…
「本物ですよ。たまにそういうこと言う人がいらっしゃいますけど…
本物だと思っていない方にお売りするわけにはいきませんので、疑わしいと思われるなら、やめていただいて結構です」
かすかに慌てたような表情を見せ、その人はかぶりを振った。
「いや、疑うわけじゃないよ。
でも、本物ならどうしてこんなところで露店なんかにしてるの?
あやしまれても…」
うまくやらなくちゃ… うまく売れば、お父さんだって笑ってくれる…
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