第3章 花屋に集う人々

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「じゃあ、乾杯かな?」 そんな雰囲気を見ていた美里さんが、麻里さんの飲み物を用意し始めた。 「あ、私、車なんで……」 「大丈夫、ノンアルコールのカクテル作ってあげるから」 美里さんはウィンクした。 「はい、シンデレラ」 美里さんが麻里さんの前に置いたのは、マティーニグラスに入れたオレンジ色のカクテルだった。 「うわあ、きれい」 「オレンジ、レモン、パイナップルジュースをシェイクしたものよ」 彼女は、心からわくわくした感じでそっと口をつけた。 「美味しい♪」 麻里さんはそう言って笑った。 最初来た時のおどおどした雰囲気がまるで感じられなかった。 それを見て沙音梨も微笑んだように見えた。 俺も、そんな雰囲気に気持ち良さを感じていた。 「美里さん、俺も何かこの雰囲気に合うヤツをもらえる?」 「うん♪」 美里さんも嬉しそうに棚からお酒をいくつか選んだ。 「カクテルっていいね」 「でしょ?」 気が付けば、沙音梨と麻里さんが楽しそうにおしゃべりしていた。 俺は自分が人の役に立ったというか、一人守った気がして嬉しかった。 「本当に、いいもんだ」 そして、俺の前にまたカクテルが置かれた。 「クォーター・デック。ラムベースね」 「サンキュ」 俺はグラスを掲げた。 こうして初春の夜もふけた。  
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