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もう誰もがアウターを着始めた季節、白昼での出来事だった。
「こちら朝倉。様子がおかしいのが一人。俺の前方50m。人波の中こちらへ移動中。ブルゾンの中に何か持ってるような……」
俺は左手袖口のスイッチを入れると、襟元のマイクに向かって報告した。
『こちら斉藤。同じく視認』
右隣20mに配置された奴も確認した。
『大川だ。もうすぐマルタイがそっちへ行く。動かず監視してろ。警らの警官を送る』
班長の声がイヤホンに小さく響いた。
「了解」
班長は大臣の傍に付いている。
俺と斉藤が車の側で待機していた。
目の前の公園ではフリーマーケットが行われていて、久しぶりの青空に誘われてか、かなりの人出だ。
その中からこっちへやってくる30代の薄手のブルゾンを着た男が、胸の中を膨らませていた。
目は虚ろで、おどおどするような、威嚇するような……何かつぶやいているのもわかる。
この好天とはいえ、もう12月だというのにあんな薄いブルゾンの下は肌着1枚みたいで、様子がおかしい。
「ヤクをやってるのか?」
『朝倉、動くなよ』
イヤホンに斉藤の小さな声が入った。
見ると、奴がこっちを見ていた。
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