白い葬列

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 白い葬列が王都の通りを埋め尽くしていた頃。  王国の北の境界に立ちはだかる山脈を、一人の旅人が山頂目指して登っていた。  防寒具を身に付けているとは言え、今年の寒さは並ではなかった。その上、例年にない大雪が旅人の脚を阻む。  それでも立ち止まる事なく、旅人は山頂を目指し続けた。  マントの下から山頂を見上げた旅人の顔は、薄汚れて幾分やつれはしたが、確かにアルテアのものだった。  身体は芯まで冷え切り、雪に足を取られ、腰まで埋まりながらも、アルテアは前へ進む事を止めようとはしない。立ち止まる事はできないのだから。  冷え切った指先は感覚がなくなり、既に軽い凍傷にかかっているらしかった。  それでも彼は諦める事をしなかった。例え手脚を失っても、彼は生きてこの山を越えなくてはならないのだから。  殆ど意識もなくなり、朦朧とした中で脚だけが前へと進む。ただ行かなければと言う意志だけが、アルテアを前へと進ませた。  やがて、それまでの険しい斜面が、突如として平坦な地面に変わった事を、足の裏の感触で知った。  霞んで良く見えない視線を上げると、目の前には青空が広がり、遥か北の大地がどこまでも続いているのが見えた。  遥か下方には、北の王国の首都が朧に浮かんで見える。  アルテアは山頂に着いたのだ。  ゆっくりと、しかし確かな足取りで国境を越え、北の王国へと踏み入れる。  その瞬間、アルテアは第六王子からただの若者になった。  暫し茫然と眼下に広がる街の影を眺め、それからアルテアは背後の故郷を一度だけ振り返った。  どんよりと暗く厚い雲が、切れる事なくどこまでも続いている。その下は吹雪いているのか、街影すら望む事はできない。  これから王国が歩む道を象徴するかのように、決して晴れる事のない鉛色の空。  その下で彼の帰りを待つ者達を想い、アルテアは再び決意を新たにする。  ――必ずここへ帰って来る。  父王を倒す為に。王国を、その民を救う為に。  国境を越えると、山脈の北側は嘘のように晴れ渡っていた。  南側の王国の領土では、いまだ絶える事のない雪が降り続いている。民の嘆きが、王国の上に雪を呼び寄せたかのように。  その嘆きの声を背に受けながら、アルテアは自由と闘いの日々へと足を踏み出した。            ...End
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