白い葬列

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 その年の冬は例年になく厳しく、国中で凍死者が出る程だった。  空はどんよりと厚い雲が覆ったまま、毎日のように雪が降り積もり、作物は殆どが氷の下で枯れ果てた。  その冬、六番目の王子は17歳になった。  国民の誰もが口には出さずとも、王子は春を待たずに命を落とすだろうと信じていた。その兄達が命を落としたように、彼にも順番が回って来たのだと。  冬の到来と同時に、国中を暗く重い空気が覆い尽くしてた。  骨の髄まで凍えそうに冷たい石造りの城の、滅多に人も近寄らない一角で、若い男女が声をひそめ、ヒソヒソと囁き交していた。  しかしその様子に艶めいた雰囲気は一切ない。何事かを謀って相談する共犯者の顔で、男女は周囲を憚る低い声で言葉を交わし合う。  男の傍らには小さくまとめた荷物が転がっていた。更には毛皮の脛当てをして分厚いマントを羽織り、腰には剣を吊るして、まるで旅装束である。 「それじゃ、後の事は頼んだぞ、レティア」 「はい。判っております、アルテア様。どうか我々の事はお構いなく」  レティアと呼ばれた少女は、若者に向かって恭しく頭を垂れた。  若者――アルテアは彼女の主人であるらしかった。 「先日病で亡くなった下働きの娘と、入れ替わる準備は既にできております。台所を預かる者達は、みな我等の協力者です。何もご心配は要りません、殿下」  レティアはその歳に似合わぬ大人びた口の利き方で、物怖じする事なく主に告げると、主の心中を思って微笑んで見せた。  彼に心を寄せる多くの部下や召使い達を置き去りにして城を出る事を、誰よりも嫌がっていたのは他ならぬ彼自身なのだ。  しかし、今城を出なければ、確実に彼の命は失われるだろう。  それが嫌と言う程判っているだけに、アルテアは断腸の思いで彼等を置いて、単独で脱出する事を決意した。  この優しく情に厚い主を守る為に、多くの者達が死をも覚悟して城に残る事を選び、別れの挨拶すら交す事なく、城のあちこちで日常の仕事をこなしている。  彼の脱出に気付かれるのを少しでも遅らせる為に。  彼が安全な場所に辿り着くまで、何としてでも時間を稼ぐ為に。  そしてレティアと言う少女もまた、その主の為に命を賭して城に残る道を選んだのだった。
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