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公園で少年と出会った日から、沙世の家の中の空気ががらりと変わった。
人が変わったような父親と、それに同調するかのような母親に、沙世は怯えながら日々を送った。
少年と約束した絵は、結局描けなかった。
スケッチを取り上げられたからではない。
変わってしまった家の空気が、沙世に絵に集中する事を許さなかった。本能が何かを察知して萎縮しきってしまい、絵に向かう事さえできなかった。
そして、約束の日の前日。
父親が数人の男達を家に連れて来た。
これから山にでも入りそうないでたちの、陽に灼けた、屈強そうな男達。それぞれ何やら大切そうに、長方形のバッグに入った荷物を抱えている。
父親は彼等を猟友会メンバーだと紹介した。
「猟友会……?」
訝る沙世に、父親はあのぎらついた瞳で平然と言い放つ。
「いいか、彼等が麻酔銃を構えて隠れているから、お前は少年を引き付けておくんだ。あの犬を逃がすんじゃないぞ」
「麻酔銃!?」
「お前がいれば油断するだろうから、簡単に捕獲できるだろう。いいな」
「ちょっと待ってよ! どういうコト!?」
突然飛び出した物騒な言葉に、沙世は蒼褪める。
いったい父親は何を言っているのか。
「あの少年が連れていた犬は、間違いなく『ニホンオオカミ』だ」
「え?」
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