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うららかな陽射しの下、公園の芝生の上にだらりと寝そべっていた灰褐色の犬が、不意に頭を上げ、辺りを見廻した。
「……琅(ロウ)、どうした?」
同じように隣で身体を投げ出していた少年が、上体を起こし、犬の視線の先を追う。
しばらく宙をさまよった少年の視線が、一点でピタリと止った。脇に蹲る犬の鼻先が向いた方角と、ぴったり一致する。
「これ……?」
ひくりと鼻を鳴らして犬を見下ろした少年に、上体を起こした犬が、甘えたようにひとつクゥンと鳴いて、鼻を擦り付ける。
「いい匂いって……確かにいい匂いだけど、これじゃお腹は膨れないよ?」
非難がましい視線を向ける少年に臆した様子もなく、犬は更に甘える仕種で頭を擦り付け、幾度も鼻を鳴らした。
「まあ……確かにデザートにはいいかもね。最近食べたのって、腹は膨れるけど、味はイマイチなのばっかだったし……」
でもなぁ、と暫し思案する様子を見せた少年は、しかし、唐突に勢いを付けてガバリと立ち上がった。
それに驚いたように、犬も脇に飛び退きながら立ち上がる。
「ま、たまにはいいっしょ。行ってみよっか?」
ワン! と一声吠えた犬のそれを、肯定の返事と受け取って良いものかどうか意見の別れるところだが、少年は肯定とみなしたらしい。
「行くぞ、琅!」
元気に駆け出した少年を追って、もう一声吠えた犬が後を追う。
少年の足元にじゃれ付くようにして、一緒に駆けて行く犬と少年。
日曜の昼下がりの公園にいかにも似つかわしいその光景に、すれ違う人々が思わず笑みをこぼす。
楽しそうな笑い声を立てながら駆けて行く一人と一匹は、やがて通りの人込みに紛れてその姿を消した。
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