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花は、
美しければ美しいほどに弱くはかないものだ。
だからこそ愛おしい。
それは守られるべき存在。
「なぁ、菊…おまえもそう思わないか」
何度目になるともわからないが、俺は彼の名を呼んだ。
返事などあるはずもない。
あの日以来
眠ったまま一度も目を覚まさない彼。
王子様のキスで目覚めるんじゃないか…なんて、
いつもなら茶化す男が、今回ばかりは何も言わずに俺の頭を撫でた。
それはまるで慈愛のような。
吐き気すら覚えるような優しさだった。
いっそいつものようにへらへらとしてくれていたらと、不覚ながら俺は思った。
菊が今こんな状況なのは誰のせいでもないのだから。
定められた運命に、俺達が逆らえるはずもなかった。
ただ菊をこんな状況に陥れたのが
菊の想い人であり俺の弟分であるという、皮肉。
永劫、菊の痛みを理解することは出来なくても
その事実だけは、わかる。
どれほどに辛く悲しく、痛いことなのか。
俺は
菊はあいつといるときに一番幸せそうな笑顔で
笑っていたのを知っている。
二人が愛し合っていたことも
だから俺がどれほど菊を愛したところで、それは意味を為さないということも
俺は知っていながら、菊を愛していたのだから。
目覚めた君に何と声を掛けたなら
君は俺を見てくれるのか
俺に本当の笑顔で笑いかけてくれるのか
そんなことしか考えられなかった。
あいつへの憎しみよりずっと
君への愛欲が強かった。
「菊…」
俺は小さくため息をつき、病室を出ることにした。
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