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雨と人を避けるように、路地裏を通った。
この金髪は、ここでは特異であるらしく、歩けば誰もに後ろ指をさされる。
俺は自分の容姿のことを、よくも悪くも他人にどうこう言われるのが好きじゃない人間だから、
ならば人とは出会わない場所を通るよりほかないという考えだ。
ほどなくして、俺は目的地である、彼の家へたどり着いた。
俺の目的地は本当は、あいつの隣なのだけれど。
「あーめあーめ、ふーれふーれ、…」
大きな門の中から、微かに歌う声が聞こえる。
多分、あいつだ。
申し訳ないとは思ったが、俺は大声で叫んだ。
「菊ー!!」
「…………」
歌が止まり、ぱたぱたと走る音が聞こえた。
ザアァァァ─────
雨の音だけが響く。
雨、少し強くなったかな…
5分ほど待つと、はい、という声と共に門が少しだけ開いた。
その隙間から、黒い瞳がこちらを見ている。
「よぉ、菊。元気にしてたかよ?」
「…アーサーさん…」
相手が俺だとわかり、彼は門を大きく開き、どうぞ、と俺を中へ招いた。
うん、予想通り。
梅雨の時はいつもこうなのだ、
本田菊は。
「雨に見舞われて大変でしたね…濡れませんでしたか?」
菊はそう言って、玄関前で俺の傘を傘立てにおき、俺を居間へと案内した。
俺は濡れてしまった靴を脱ぎ、丁寧に揃えあぁ、と短く答え、菊の後ろをついていった。
雨が降って、辺りは薄暗いと云うのに、菊の家にはひとつだって明かりはついていない。
菊の目は心なしか虚ろで、目の下には隈ができていた。
いつものことだが、やはり心配だ。
「菊…お前また寝てないのか」
俺は尋ねた。
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