ク・ラ・イ・ア

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たんすをいじり、どうやらタオルを探していたらしかった菊は一瞬、手を止めた。 本当に一瞬。 けれど俺はそれを見逃さなかった。 「そんなことないですよ、ちゃんと寝て…」「ない」 俺は菊の言葉を遮り、そのうえ否定した。 菊はこちらを見た。 見たというより、睨むという方が正解かもしれなかった。 ザアァァァ───── 雨の音だけが響く。 菊は何も言わない。 だから俺も何も言わない。 ザアァァァ───── やがて菊は、こちらに向かって一歩踏み出したかと思うと、 一刹那後、彼は俺の目の前にいた。 銀色に光る小刀を、俺の首に突き付けて。 「………」 「私には深入りしないでくださいっていつも」 話すのが面倒になったのか、菊は言葉を途中で止め、小刀の腹を俺の首に這わせた。 「…おいおい、マジかよ」 危険だ。 この時期の菊は危険すぎる。 触れただけで爆発する。 菊は 不安でたまらないと言う。 雨の音が、雨の匂いが。 雨の冷たさは孤独に似て不安なのだと、言う。 「……しにますか?それとも、帰ってくれますか」「……どっちも断る!」 俺は素早く身を引き、小刀を持った方の菊の手首を強く掴んでそれを落とさせ、そのまま菊を抱き寄せた。 「っ…離せ…!!」 「断る」 長い沈黙。 菊はとうとう諦めたらしく、抵抗をやめた。
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