かなしいひと

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かなしいひと

扉から聴こえる喘ぎ声。 次いできこえたのは恋人の楽しそうな声。 “キモチイイ?” そんな音をBGMに私はシチューを作ってる。 牛乳を入れて完成間近で後ろに気配を感じた。 「あなた、だれー?」 頭の足らない喋り方をする目の前のオンナノコ。 「あ、俺の同居人。」 ひょっこり現れたコイビト。 そんな二人にクスリと笑い、いいことを教えてあげる。 「はじめまして。私は同居人兼、彼のお姉さん的存在の未来といいます。」 よろしくと手を差し出せば 「オネーサン?廉(れん)君酷い!こんな美人に家事やらせて。 あ、なるみっていーます!廉君の恋人ですっ!」 握手を交わし互いに微笑む。 「あ、シチュー作ったんですけど。よかったら食べていきますか?」 「えー!いいのー!?」 どうしようと建前の遠慮をする彼女の後ろで 彼女に見えないのをいいことに不機嫌に私を睨む廉。 ふふっ コイビトが長くいたら嫌なのかしら? そんな廉には視線を向けず彼女に話し掛ける 「遠慮しないでいいんですよ?」 この言葉を待っていたかのように彼女は顔を上げて じゃあ、お言葉に甘えてなどと言い出した。 さあ、廉。どうするの? 目線を廉に向ければ廉は いや、実は今日未来の誕生日でさ。このあと久々に二人で祝う約束なんだ。などと言い出した。 あら、私の誕生日は一ヶ月先じゃなかった? そんなことを考えてると なあんだ、なら早く言ってよー。未来さんに感謝の気持ち伝えなよ~。 と言って意外にあっさり帰るなるみちゃん。普通疑うわよ? 玄関が閉まる音がして廉が戻ってきた。 未来ひでー。なるみなんてさっさと追い出せばよかったのに。 顔を首筋に埋めながらいう廉は、とても浮気症。 少しは妬けよ…だなんて妬いてほしいから浮気するなんて。 どこの恋愛小説の住人よ。 ソファーに押し倒されながら、私は違うことを思い浮かべる。 廉はきっと知らない。 私の耳裏に朱い跡があることを。 かなしいひと (浮気されてることを知らない廉。それとも…)
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