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大分走って階段前で2人の手を離して俺は座り込んだ。
「お前知ってたか?生徒会に歯向かったらアカンねん…」
歯向かったことになるのか、と考えて頭を抱えた。
「ごめんな、吉積と宇佐波」
「いやいや、連れ出してくれてありがとな」
「僕の方こそありがとう!渡君のおかげで助かったから…」
安心して少し笑ったら、2人ともポカーンと間抜けな顔になっていた。
やっぱり俺の顔は気持ち悪いのかと落ち込んだ。
宇佐波は職員室に用があるからと行ってしまって、俺は吉積と2人で校舎を歩いていた。
「渡、双葉んとき帰宅部やないやろ?陸上部のキャプテンやったやん。俺、地区大会で見たんや」
誤魔化せなくて、正直に頷いたら吉積は満面の笑みで俺の手を握った。
「俺、華塚の陸上部やってん。長距離やけどな。短距離部門の優勝総なめしとった双葉の馬に憧れてて!いやー、あの双葉の馬に会えるなんて嬉しいわ!」
俺は双葉の馬と呼ばれ、馬扱いされていた。
馬、馬と言われるのが嫌だった。
「あんときのオレンジジュースありがとな!」
オレンジジュースで思い出した。
地区大会の日、コーラが飲みたくて自販機でコーラを買ったら、陽気な音がしてオレンジジュースが出てきた。
そのオレンジジュースを後ろに並んでいた華塚のユニフォームの奴に有無を言わさずに渡したことがある。
「いきなり渡されてびっくりしたんやけどな!」
「そりゃびっくりするよなー。俺、不審者だ」
「…なぁ、陸上部入らへんの?」
やっぱり勧誘されたわよ、奥さん。じゃなくて、俺は帰宅部だと宣言している。
「申し訳ないけど、俺ずっと帰宅部に憧れてて…」
「なんやそれ。んー、もったいないわ自分。入るんやったらよろしくな」
昔の話をしたり、メアドを交換したりしてやっと下足場に到着。上靴を脱ぎ、ローファーに履き替えた。
「ここを出てまっすぐに行ったら自販機が見えるで」
「ありがとな、吉積!また明日!」
吉積に手を降り、俺はまっすぐに走り出した。
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