傷だらけの心

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「……って、ポケモン受け取るの忘れてたー!!」 突然サヤがシャウトし、ポケモンセンターに駆け込む。毎度の事だが慌ただしい。 「やれやれ……」 レンはため息をつき、ポケモンセンターへと入っていった。 「すいません!昨日預けたポケモンを引き取りに来ました!」 昨日のロコン捕獲の際に火傷を負ったルクシオと、弱っていたロコンをポケモンセンターに預けていた。それを引き取りにポケモンセンターに来たのである。 「ルクシオとロコンね……はい、どうぞ」 サヤは、差し出された2つのモンスターボールを受け取る。 「よーし!これで準備は……」 と、不意にガシャンと金属が床に落ちる音が聞こえた。ポケモンセンターの中が一瞬静まり返り、その後治療室の中から、ところどころに包帯を巻いた男性が慌てたように出てきた。 「どうしたんですか!?」 ジョーイさんは男性に尋ねるも、男性はジョーイさんの手を振り払い、情けない悲鳴をあげながらポケモンセンターを出ていった。 「な、何だったんだろ……」 サヤは、男性が出てきた治療室の方に目をやった。すると、そこには手に花束を持ち、悲しそうな目をした女の子が一人、佇んでいた。 「あの子……」 「やけに騒がしいな……」 どこにいたのだろうか、いつもと変わらぬ調子でレンが歩いてきた。手には缶コーヒーが握られていた。 「なんか男の人が急に飛び出していってさ……それにしても……」 と、もう一度先程の女の子に目をやる。やはり先程と同じように悲しそうな目をしたままである。 「ちょっと待ってて」 言い終わるより早く、サヤは小走りでその女の子に近づいた。 「ねぇ……」 「……?」 急に話し掛けられて困惑したのだろうか、女の子は一瞬ビクッと震えると、サヤをまじまじと見つめた。 「どうしてここで立ってるの?誰かのお見舞い?」 「……ハイ」 その女の子は華奢で、声にも幼さが出ていた。ただ、少し大人びた……というよりは暗いという感じがした。 「私はサヤっていうの。あなたは?」 「私は……ツバキ……」 「ツバキちゃんか……」 サヤは、何故このツバキという女の子に話し掛けようと思ったか、自分でもよく分からなかった。ただ、なんとなく放って置けなかったのだ……
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