傷だらけの心

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「ねぇ、ツバキちゃんは誰のお見舞いに来たの?」 サヤはなんとなく聞いただけだろうが、ツバキは表情を強張らせ、口をギュッと強く閉じた。 「ツバキちゃん?」 「……」 サヤは少し気になったが、こうなると多分聞き出せないだろうと思い、立ち上がる。 「変なこと聞いちゃってゴメンね」 「あ、いえ……」 もうツバキの表情は元に戻っており、サヤは安心したのか、ツバキの頭に手を置き、その手を左右に動かす。 「あっ……」 「じゃあ、私行くね」 と、サヤが立ち去ろうとすると、不意にツバキがサヤの手を掴んだ。 「えっ?」 「あの……サヤさんはトレーナーさんですか?」 唐突な質問だった。一体どういう事なのか、何の意図があるのかは分からなかったが、とりあえずサヤは「そうだけど……」とだけ答えた。 「そうなんだ……」 一瞬、ツバキの声のトーンが落ちたような気がしたが、サヤは気にしない事にした。 「じゃあ、またね」 「うん……」 サヤは早足でツバキのもとを離れ、レンと共にポケモンセンターを後にした。 「……」 その姿を、ツバキは悲しそうな目でずっと見ていた。 「どういう事!?」 通りかかった数人がビクッと震え、辺りを見渡す。それくらいサヤの叫び声は大きかった。 「ジムが閉鎖ね……こりゃ困ったな」 やれやれ……と、ため息をつくレンの首元に、サヤの手が伸びる。 「ぐっ!?」 「他人事みたいな言い方しないで!」 「だって他人事……がっ!?」 サヤの爪がギリギリとレンの首に食い込む。 「どうすんのよ!これじゃあこの街に来た意味が無いじゃない!」 「とにかく離せ!離してくれ!」 ようやくサヤの拘束から離れたレンは、2、3回咳き込むと、ポケモバを取り出して電話をかけた。 「こんな時に何を……」 食ってかかろうとしたサヤを制し、電話を続けるレン。やがて、レンは電話を切ると、少々深刻な表情を浮かべ、サヤの方を向く。 「今、ポケモン協会に問い合わせた。このジムはどうなったのか……と」 「そしたら……何だって?」 レンは、一回ため息をつくと、ジムを横目に見て話し出した。 「ここのジムリーダー……亡くなったそうだ……数ヶ月前にな……」 「えっ……」
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