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客間に通された二人は、改めて家の中を見渡す。サヤの家も、それなりに大きいのだが、ツバキの家はその倍以上はある。
だが、これだけ広い家なのにツバキと母親以外に誰もいない。父親はいるのだろうが、それでも少なすぎる。
「ねぇ、ツバキちゃん」
「なんでしょうか……?」
「この家にはツバキちゃんとツバキちゃんのお母さん、それとお父さん、それ以外に誰かいないの?」
ツバキは意外そうな顔をして、「いませんよ」と答えた。
「えっ、でもこんなに広い家なのに……お手伝いさんとかは?」
「あぁ、お手伝いさんはたまに来ますが、住み込みではないんです」
「そうなんだ……」
と、しばらくしてツバキの母親がお茶を持ってきた。お茶の入っているカップも、それを置く皿もみな高級感をプンプンと漂わせている。
「どうぞ、つまらないものですが……」
「恐縮です……」
「いただきます……」
やはり、茶葉も高級品なのだろう。二人が今まで一度も飲んだ事のないような美味しいお茶だった。
「すっごい美味しいよ!ねぇ!」
「あぁ……今まで飲んだ中で一番美味い」
ふと、サヤがツバキを見ると、ツバキはカップに手を出さず、ただじっとお茶の入ったカップを見つめていた。
「どうしたの?」
「お砂糖……」
「砂糖?」
と、ツバキの母親がハッと口に手を当てた。
「いけない!砂糖を忘れてたわ!今、持って来るわね」
「いい、私は飲まないから……」
と、ツバキは立ち上がり、サヤの服を引っ張る。
「私の部屋……行こ?」
「うん、いいよ。レンはどうする?」
レンは飲み終えたお茶のカップを皿に置き、荷物を持って立ち上がる。
「俺は宿に戻るよ。ここに居ても迷惑になるからな」
「えー……もう帰るのー……」
「帰る時に連絡してくれ。あまりに遅くなるようなら迎えに来る。じゃあな」
「うん、分かった。じゃあ行こっか」
「うん。こっちだよ……」
二人が部屋を出たのを見計らって、レンも部屋を出ようとする。
「あの……」
と、不意にツバキの母親がレンを呼び止めた。
「何ですか?」
「あの……あの子の……ツバキの事で少しお話が……」
「俺に……ですか?」
「はい……少しお時間をいただけませんか?」
レンは少し迷ったが、荷物を置き、再びソファに腰を下ろした。
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