傷だらけの心

9/29
前へ
/177ページ
次へ
客間に通された二人は、改めて家の中を見渡す。サヤの家も、それなりに大きいのだが、ツバキの家はその倍以上はある。 だが、これだけ広い家なのにツバキと母親以外に誰もいない。父親はいるのだろうが、それでも少なすぎる。 「ねぇ、ツバキちゃん」 「なんでしょうか……?」 「この家にはツバキちゃんとツバキちゃんのお母さん、それとお父さん、それ以外に誰かいないの?」 ツバキは意外そうな顔をして、「いませんよ」と答えた。 「えっ、でもこんなに広い家なのに……お手伝いさんとかは?」 「あぁ、お手伝いさんはたまに来ますが、住み込みではないんです」 「そうなんだ……」 と、しばらくしてツバキの母親がお茶を持ってきた。お茶の入っているカップも、それを置く皿もみな高級感をプンプンと漂わせている。 「どうぞ、つまらないものですが……」 「恐縮です……」 「いただきます……」 やはり、茶葉も高級品なのだろう。二人が今まで一度も飲んだ事のないような美味しいお茶だった。 「すっごい美味しいよ!ねぇ!」 「あぁ……今まで飲んだ中で一番美味い」 ふと、サヤがツバキを見ると、ツバキはカップに手を出さず、ただじっとお茶の入ったカップを見つめていた。 「どうしたの?」 「お砂糖……」 「砂糖?」 と、ツバキの母親がハッと口に手を当てた。 「いけない!砂糖を忘れてたわ!今、持って来るわね」 「いい、私は飲まないから……」 と、ツバキは立ち上がり、サヤの服を引っ張る。 「私の部屋……行こ?」 「うん、いいよ。レンはどうする?」 レンは飲み終えたお茶のカップを皿に置き、荷物を持って立ち上がる。 「俺は宿に戻るよ。ここに居ても迷惑になるからな」 「えー……もう帰るのー……」 「帰る時に連絡してくれ。あまりに遅くなるようなら迎えに来る。じゃあな」 「うん、分かった。じゃあ行こっか」 「うん。こっちだよ……」 二人が部屋を出たのを見計らって、レンも部屋を出ようとする。 「あの……」 と、不意にツバキの母親がレンを呼び止めた。 「何ですか?」 「あの……あの子の……ツバキの事で少しお話が……」 「俺に……ですか?」 「はい……少しお時間をいただけませんか?」 レンは少し迷ったが、荷物を置き、再びソファに腰を下ろした。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

310人が本棚に入れています
本棚に追加