敗者の屈辱

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「……というわけです」 レンは受話器を耳にあて、こう話を締めくくった。電話の向こうの相手はしばらく黙っていた。 「ただ……ヒガン博士、ダイキを責めないでください。あいつも悪気があったわけじゃ……」 『えぇ、分かっています。だけど、女の子には優しくしなさいとは言っておかないとね』 「すいません……俺が付いていながら……」 電話越しに頭を下げるレン。元からこうなる事を予測して同行したのだ。それでいてサヤに万が一の事があれば、博士の研究もパーになる。それだけは避けたい。だが今の状況……果たしてサヤは旅を続けると言うだろうか? 『あなたが責任を感じる事ではないわ。だけど、今は彼女を励ましてあげて』 「分かりました……失礼します」 電話を切り、サヤのいる部屋に向かった。 「ベイィィ……」 「リィィ……」 「チル……」 ベイリーフ、コリンク、チルットが、心配そうにサヤを見つめている。 サヤはポケモンを受け取ってからというもの、ベッドに横になったまま、たまに嗚咽を溢すのが聞こえるだけで、全く動かない。 「大丈夫だよ……」 サヤはようやくベッドから起き上がり、三匹の頭を撫でる。 「ベィィ……」 そんなサヤの様子に耐えられなかったのか、とうとうベイリーフも泣き出してしまった。自分の主人が悲しんでいるのを、自分が弱いせいだと思い込んで…… よく見れば他の二匹も涙ぐんでいた。 「ごめんね……自分のポケモンに悲しい思い……させるなんて……トレーナー失格だよね……」 サヤは泣いている三匹をボールに戻すと、大声で泣き出した。自分の不甲斐なさ、トレーナーとしての未熟さ、自分のポケモン達を傷つけてしまった事に耐えられずに…… そこまで聞いて、レンはドアノブから手を放した。 「……今日は、そっとしておこう……」 レンはポケモンセンターのエントランスに向かっていった。自分がいながら、サヤに辛い思いをさせている事に、怒りを露にしながら……
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