ひとつの道

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「そこのあなた……」 サヤは、背後から誰かに呼ばれたような気がした。 「えっ、スギナさん!?」 サヤを呼んだのはスギナだった。スギナは微笑みを絶やさずにサヤを見ている。 「あら、驚かせちゃったかしら?」 「あぁ……いえ……ちょっとビックリしたけど……でもどうして?」 「あなた、悩みを抱えてる……悩み、というよりはジレンマみたいだけど」 えっ……と、スギナを見る。どうして分かったのだろうか? 「どうしてって、あなたの顔に書いてあるわ。あなた、分かりやすいから」 微笑みを絶やさないスギナを流石だと思いながら、どこか不思議な気持ちを抱くサヤに、スギナが問いかけてくる。 「あなた、お名前は?」 「サヤ……です」 「そう、サヤさん……ね。ねぇサヤさん、この後少し付き合ってくださらないかしら?」 「えっ、大丈夫ですけど……」 「よかったわ。じゃあ美味しい喫茶店、紹介するわね」 スギナに連れられてやってきたのは、高級感溢れる喫茶店だった。 店に入ると、スギナはカプチーノを、サヤはミルクティーを注文した。 「サヤさんは占いはお好きかしら?」 「えっ……」 唐突な質問に一瞬迷うも、一応はい、と答える。 「そう。私ね、タロット占いが好きなの。サヤさんもやってみない?」 「あ、はい」 スギナは持っていたカードを取り出し、サヤはその中から一枚引く。 「逆位置の『星』のカードね。これは伸び悩み、挫折、報われない努力等を暗示する。当たっていたかしら?」 答える代わりに、サヤは顔を伏せた。カードが暗示したサヤの運命は、まさに今、サヤ自身が体験しているからだ。 そうこうしている内に、ウェイターがカプチーノとミルクティーを運んできた。スギナはカプチーノを美味しそうに啜ると、微笑みを浮かべていない真面目な顔で、未だミルクティーに手を着けていないサヤを見つめた。そして、感情を押し殺したような声で呟いた。 「このまま旅をしても無駄よ……」
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