ひとつの道

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「……は?」 「今のままでは旅をする意味が無いわ。止めた方がいいわよ」 サヤがバンッと机を叩いて立ち上がる。 「何であなたにそんな事を言われなきゃならないんですか!!あなたに……あなたに何が分かるんですか!!」 物凄い剣幕でスギナを睨むサヤ。その目には涙が浮かんでいた。 「私は真実を言っただけ……それに、あなたの事、少しは分かってるはずよ」 「そんなデタラメ……」 「昨日アラマキ峠の麓でバトルしていた二人の中に、果たしてあなたは入っていなかったのかしら?」 「……見ていたんですか」 サヤはイスに座り直す。スギナはカプチーノを置き、真っ直ぐサヤを見つめる。 「あの時、私はあなたのバトルを見て思った……あなたにこれ以上の成長は望めない……とね」 「何で……ですか?」 スギナはしばらく黙った。そして…… 「ではあなたは何故ポケモンを戦わせるの?」 「えっ?」 予想外の質問だった。今までこんな事を聞かれた事など、一度も無い。 「何の為にって……」 「ライバルに勝つため?それとも、あの男の子と一緒に旅をする理由を作るため?」 「違います!」 「では何?あなたのバトルにはそれが無かった。バトルにおける自分らしさ……というものが」 「自分……らしさ……」 「他人のバトルを真似る事は、誰でもできるわ。だけど、それは結局真似でしかない。自分にしか無いもの、自分じゃなきゃできない事を考えてバトルに活かす、これが重要なんじゃないかしら?」 サヤは今までバトルしてきた人を思い返す。 ダイキのバトルスタイルも、レンとのバトルを経てかなり進歩したように見える。ポケモンの長所や技を活かした戦い方……ジムリーダーのジギも、毒タイプという1つのタイプにこだわった戦いをしていた。 では、自分のバトルには何があるのか……思い付かない。いや、無い。 「……そろそろ行きましょうか?」 スギナが伝票を持ち席を立つ。 「自分らしく戦う……どうすればいいか、私が教えてあげるわ」 伝票を手に話しかけてきたスギナの表情は、微笑みを浮かべた女優の顔に戻っていた。
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