土の香

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その日は朝から雨が降っていた。 昨日はあんなに晴れていたのに 窓に額を付け、私は思う。 やだなぁ、こんな日に学校なんて行きたくないなぁ 溜息をついてもう一度、布団の上に倒れこむ。 その時、家のベルが鳴った。こんな朝早くに訪ねてくるのは、一人しかいない。 重たい身体を引きずるようにして玄関の扉に近付く。 「どちら様でしょうか?」 自分でもびっくりするような不機嫌な声で私は外にいる人物に話し掛ける。 「桜草、もしかしてまだ何も準備してないの?」 扉の外にいるのは予想通り、雪夜だった。 「私、今日は学校を休むわ。気にせず行ってちょうだい。」 「馬鹿なこと言ってないで早く鍵を開けて。準備を手伝ってあげるから。」 雪夜は一度言ったことを絶対、実行する。 私は諦めて鍵を開けた。扉を開き、少し機嫌を損ねたらしき少年が我が物顔で私の部屋へと入ってきた。 雪夜は少女のように美しい顔を少し歪めると溜息をついた。 「どうせ開けるのだったらもっと早く開けてよ。お陰で完璧に遅刻だ。」 桜色の寝間着姿で長い髪はくせがついてぼさぼさ。そんな私を見て、『やっぱり』とでも言うように再び溜息をつきながら、雪夜は自分の鞄を床に置く。 「そんなに溜息をつくと幸せが逃げちゃうわよ。それに、私は先に行けと言ったでしょう?」 私はすかさず言い返すとその場に座り込んだ。 雪夜は手慣れた手つきで私の長い髪を結っていく。 「雪夜、こんな日は家の中が一番なのよ。だって、雨で憂鬱になってなにもできやしないでしょう?」 雪夜は手を止めることなく私の言葉に応える。 「今日の午后は金木犀と遊ぶ約束をしてるから、行かなくちゃだめだよ。」 私は小さな欠伸をして瞼を閉じる。 「じゃあ、午后まで家にいるわ。」 雪夜は髪を結い終わったようで、手を止めた。 「また、馬鹿なことを・・・」 溜息が一つ聞こえた。
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