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「志弦、帰ろ」
いつものように、流唯が教室へと迎えに来る。
「う、うん」
学校の人気者である彼を、独り占めした生徒として、志弦はクラスの女生徒から…いや、全校生徒の女生徒と言っても過言ではない。…その彼女達から、今日も白い目線を向けられていた。
あの日から、ずっとである…。その状況は、今も変わる事はなかった。
志弦はその嫉妬心から早く逃れたくて、教室から廊下へと急いで飛び出した。
「ちょっと、志弦!鞄っ、鞄忘れてる!!」
慌てて出てきた為か、手にあるはずのいつもの荷物がスッポリと抜けていた。
その光景を眺めていた流唯は、思わず苦笑する。
「志弦のドジなとこは、一生治りそうにないな」
付き合い始めておよそ数十日――。
この期間の間に見てきた志弦のドジさ加減には、流唯自身も半ば諦めていた。
「そんな~…」
「先輩、こんな子ですけど宜しくお願いしますね」
「わかってます」
「…………」
彩華は急に静かになると、その口元を流唯の耳へとそっと近付けた。
「…ちょっと周りから反感買っちゃってるみたいで…」
「…………」
「本人は気にしてないように見せてるけど、ゃっぱり――」
彩華は顔を歪めた。やはり、親友として心配しているのだろう。そう察すると、流唯は優しい眼差しで――
「…ゎかってる」
そう、小さく呟いた。
「…大丈夫みたい」
「ぇ?」
「先輩のその顔見て、安心しました。あの子の事、ちゃんと大事にしてくれそうだもん」
彩華は、恥ずかしそうに笑った。
「優しいんだね」
「そ、そんな事――」
「大丈夫、幸せにするよ」
「…はぃ」
流唯は、志弦をその目に映すと、はっきりと頷いてみせた。
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