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同時に、一層に増した緊張感が体を覆う。
――カサッ
手紙を開く音がする。
沈黙が走り、その綴った(つづった)文字を読んでくれている事がわかる。
――不安で、不安で…。
その時間は、とんでもなく長く感じた。
「ありがとう」
長い長い沈黙の後に聞こえたのは、そんな台詞だった。
「?」
言っている意味がいまいち理解出来なくて混乱する。
「…伝わった、かな?」
ハニカミながら、少し照れた顔付きで自分の鼻頭を触った。
「……嘘」
「宜しく…゛佐伯 志弦(しづる)゛さん」
差し出したその右手を、志弦はゆっくりと握り返す。その手はとても暖かくて、何だか少し可笑しかった。
「どしたの?」
「ぅぅん、何でもないです」
「?」
「私こそ、宜しくお願いします」
そしてもう一度強く、その手を握り返した。
「何か、変だね」
突然に笑い出した流唯を、志弦は首を傾けて見つめた。
「何が、ですか?」
「お互いに『宜しくお願いします』なんてさ」
言おうとしている事がわかり、志弦も微かに笑った。
「そうですね」
「…帰ろっか?」
「はいっ!」
――――…………‥‥
――それが、初めての出逢いだった。季節は、秋。肌にあたる冷たい風が、冬の訪れを告げようとしていた…。
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