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丁寧に頭を下げているだろうエルトナの挨拶は、俺の頭が下を向いているという状態のせいで俺の視界には入ってきやしない。
まあ、何時までこうしててもどうしようもない。俺の様な小物は、一分一秒の無駄ですぐに危うい目に会ってしまうのだから、時間は有効に活用しなければならない。
「あ~、エルトナだったか?」
俺が彼女に尋ねると、頭を一度縦に振って簡潔に答える。
「一つ教えてくれ」
「何なりと」
「………………」
……何となく、こう言ったやり取りがうっとおしい。
が、そんな事を気にしている間にも時は過ぎて行く訳で、そこら辺はひたすらにスルースルー。
「……サテナは何の用事で出掛けたのか知ってるか?」
聞きたいのはそれ。
かなり自惚れているかもしれないが、あのサテナが俺を放って行く程の案件というのは意外で。そうだと思うと少し興味が沸いたのだ。
「おそらく、御嬢様はこれの真偽を確かめに中央へ御出でになられたのかと……」
そう言って差し出されたのは一通の書類袋。
何の厚みもない事から、おそらく中身は精々数枚程度か……。
「何々……。えっと魔界、調査書……?」
◆◆◆
「父上も、ルシファも今頃何を話しておるのかの……」
彼女の元いた部屋では、そんな予想の斜め上を行く様な格闘劇が行われているのだが、そんな事を知らないサテナは二人の仲を思って微笑みを浮かべる。
「御嬢様。こちらを……」
サテナが椅子に腰掛けると、その前の机にエルトナが一通の書類を差し出す。
「流石に仕事が早いな、エルトナ?」
「勿体ない御言葉です……」
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