バルムント包囲網

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「にも関わらずこれ……、ってのをサテナが怪しく思ったって事か」  手に持った調査書をつまみ、ひらひらと振って見せる。  エルトナも、この役に立たない調査書に思う所があったのだろう、俺のぞんざいな扱いに対して何も言わない。 「本来、一般の魔族の情報程度ならば問題なく手に入るはずなのです……」  ふと言葉を切るエルトナ。俺が不思議に思って顔を上げ、彼女を見ると、そこにあったのは警戒する様な極めて真剣な表情。 「……失礼を承知の上で一つだけ、御聞かせ下さい」  俺ごときに妙に改まっている口調はそのまま。ただ言葉に載せる感情だけを敵意に変えて、俺を威嚇する化け物。  いや、凄いねこれは? 良くもまあこれだけの兵(つわもの)をこんな所に集めたもんだ。  正直言って、実力云々は別としたら、さっきの親父さんよりこの女の方が何倍も恐ろしい。  そんな化け物が俺を試すためにこちらへと問いを投げかける。 「……貴方は一体何者何でしょうか…?」 「知らね」 「…………っ!」  おわっ、一気に敵意を殺気に変えやがった! 「ああ、悪い。言い方が悪かったな」  どうどう、と今にも暴れそうな暴れ化け物を落ち着かせようと手を上げる。 その程度で収まるなんて思っちゃいないが、取り敢えず話は聞いてくれるらしく、エルトナの身体に流れている膨大な魔力の流れを止めてくれた。  痛っ、余波が肌にちくちくくる! 「俺が何者か、って事だけどな? 俺にも良くわからない。サテナから聞いてないか? 俺がちょっと前まで人間として生活していた事を」
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