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相も変わらないのは俺も同じで。
惚れた弱みは続いてて、一年ぶりという隠し味を加えられたサテナの顔に、今更怖じけづいたなぞ言えるはずもなく。
「……うし、行くか」
「うむ、行こうか?」
俺は、怖い強いお義父さんの待つ彼女の城(いえ)へと足を進める事にした。
◆◆◆
「あー、緊張してきた……」
山と呼ぶか、城と呼ぶか。人の世では想像すら出来なかった様な巨大建造物。
格式というよりも、目にした相手を圧倒する事を目的としたその造りは、その方針通りに体が震えそうになるほどの威圧感を辺り一面に放ち続けている。
そして威圧されすぎて、今にものけ反ってしまいそうな俺は、眼前にそびえるそんな巨城を前に深呼吸加えて溜め息。
右手を解して、左手解して、足は何時でも逃げられる様に念入りに。
あー、緊張するな~。
「……ルシファ、そんなに緊張するでない。妾は、例え主が父上に認められなくとも、主の側を離れる事は絶対にないのだからな?」
そう元気づけてくれるサテナの笑顔に、こんな所では絶対に死なないと誓いを立てて、俺を誘う様に開かれた扉に一歩踏み出す。
と、不意に、闇に包まれている廊下から一人の女がこちらへと歩み寄ってきた。
「お嬢様、よくぞお帰りになられました……」
その妙にバインな女は慇懃な態度でサテナに向かって頭を下げる。
「エルトナか……!」
その女に向かって、サテナは懐かしそうに顔を綻ばせてその名を呼ぶ。
すると、それに返す様に今まで無表情にこちらを見ていた女も、サテナへと微笑み返す。
「帰った早々で悪いのだが、至急父上に取り次いでもらいたい。……頼めるか?」
くだんの事だな、と思いながら丁寧な口調で頼み事を話すサテナを眺める。
その姿は主従というよりも、目上の、何となく乳母に接するそれの様に見える。
「ええ、畏まりました」
「すまぬな」
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