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「…………、ペッ……」
口に入った、鉄の味がするそれを吐き出す。
それでも完全に取り切る事は出来ず、口の中いっぱいに広がるのは生臭い血液の香り。
一言で表すのなら弾けた。
もう一語増やせと言うなら頭部が。
ほぼ自重に任せただけの一撃。たったそれだけで包丁を、その身にかけらの傷もつけずに防ぎきった鎧を纏ったこいつの頭を、まるでトマトの様に易々と打ち砕いたのだ。
「……まあ、汚れならどうにでもなるか?」
どんな惨劇の跡だ、と叫ばれそうな調理場を見ながらそんな考えを巡らせる。
そんな中、ほんの3つ4つの頃に見た自分の実家を思い出して、物凄い自己嫌悪に襲われた。
「…………?」
俺が自分の生まれとその親の存在への摩訶不思議に頭を痛ませている俺の背後に立つ物音。
今まで、魚に取られていた意識を背後に回して初めて気付くのだから、それが自分の勘違いだという可能性はないな、と焦る心を抑えながら後ろを振り向く。
「………………」
「………………」
俺の目が捉えたのは一人の少年。
将来有望なその若き蕾は、こちらに向かいその小さな体を折り畳んで、震える肩をそのままにこちらに向かって土下座を見せていた。
……本当、申し訳ない。
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