52995人が本棚に入れています
本棚に追加
「後……は、あれだな。確か勝手にハムやらパンやらを輪切りにしてくれる包丁いらずの器」
白い陶磁を思わせる平たい皿を指差し、昔、アメリさんがとても便利だと喜んでいたのを思い出す。
あー、アメリさんや叔父さん、俺が残した書き置きちゃんと読んでくれてるかな?
「え、と……? あれは『晒しの首皿』と言って、主に戦いに負けた者の首を刎ね、それを飾るための処刑道具なのですが……」
ファーと呼ばれている女の子の説明のお陰で、あの時叔父さんが『この器で飯を食うのか……』と愕然としていた理由が今、はっきりと分かりました。
……ああ、どうか未使用でありますように。
「……やはり主にとっては、魔族の住家ですら単なる凡庸なるものに過ぎぬのだな…」
サテナがそう言いながら溜め息をつく。
いや、な? それ、俺がどうって言うよりも、周りが可笑しいんだと思うんだよね、うん。
特に叔父さんとか、親父とか?
「……えと、着きました。ここが広間でございます」
驚愕する少女に代わり、少年の方が俺達の到着を告げる。
ん。多少迷いながらも全てをスルーする選択肢を選び抜けたなんて、こいつ将来意外と上手く生きて最終的に俺みたいに生きそうだな?
うんご愁傷様です。
「ではこちらで、主人が来るまで暫くお待ち下さい」
シルと呼ばれた少年につぎ、全てを聞かなかった事にしたのだろう。気を取り直した少女がそう言ってソファを勧め、その脇に控えた。
そんな、気まずい貴族気分で待つこと数分。
出された飲み物の香りをかぎ分けて、毒物が混入されてないかを確かめていると、俺達の入って来た扉がゆっくりと外側から開かれる。
その開かれた扉から現れたのは一人の男。
「いや、済まない。待たせてしまったかな?」
その男は、威風を感じさせる優雅な動きで従者を引き連れ、
「よくぞ来てくれた。私が『六魔天』が一柱……」
ゆっくりとこちらに近付き……、
「『バズウ=バルムント』だ」
俺の前に腰を下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!