生徒会会則第十条

34/81
10831人が本棚に入れています
本棚に追加
/1256ページ
「……体に異常はないか?」皇士郎は薫の首を覗き込む。 「いや、特に……」  白い首筋に、一筋赤い線が入っていた。色濃く固まった血が、虎ノ介の悲鳴のように感じて皇士郎はえもいわれぬ気持ちになる。 「……さすがに毒は盛らんか」皇士郎は小さく呟いて、薫に向かい合って座り、「虎ノ介が、すまなかった」  胡座の膝に手を置いて、皇士郎は頭を下げた。 「バッカじゃねーの」  皇士郎はゆっくりと頭を上げる。 「なんだと……?」と眉根を寄せれども、薫のからりとした声に皇士郎が救われたのは確か。 「んな、謝る必要ねえだろ。てめえも……一之瀬も」 「……虎ノ介は謝らんな」  固まっていた何かがほどけるかのように、ふっと緩まった皇士郎の表情がやけに鮮明に感じた。 「だろうな、アイツは」 「……虎ノ介は、俺のことになると見境がなくなってしまう」 「……だろうな」 (それでいいのかよ、てめえは)と皇士郎の頭の中に入ってきたのは薫の声。  ――わからない。 「いつの間にか、俺が虎ノ介の生きる理由になってしまった」  なぜ、薫にこんなことを話しているのかも、よくわからなかった。聞いてほしいわけじゃない。わかってほしいなんて毛頭思っていない。 「てめえと一之瀬の関係なんざ、よくわからねえよ。窮屈そうだってことぐらいしか」  皇士郎は小さく自嘲して、 「……だろうな」先ほどまで薫が立て続けに言っていた言葉を口にしていた。 「でもよ」薫は面倒くさそうに頭をかいた。「理由なしで生きていけるほど、俺たち強くできてねえんじゃねえの?」  なぜ薫にこんな事を話していたか――薫の、こんな言葉が欲しかったからかもしれない。  
/1256ページ

最初のコメントを投稿しよう!