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僕の心が暗い海に沈んでいくようだった。少女にとって退屈とは、寂しいという意味でもあった。
「昨日もここで手紙を待っていたんだけど、来なかった」少女は膝を抱えている腕の間に顎を入れた。
「そうなんだ。でも、ここで待ってても手紙は来ないんじゃないかな? 家にいないと」
少女はしばらく黙ったまま、身体を前後に動かした。僕は返事を待ち続ける。
「嫌なの」
それはとても小さな声だった。意識していなければ聞き逃していた。
「嫌? 何が嫌なの」
「家でずっと待っているのが嫌なの。退屈なの」
「でも、それじゃあ、何時くるかわからないじゃないか。それに、もしかしたら、もう家に届いてるかもしれないよ」
「家にはまだ届いてないよ」少女は顔を上げ前を見る。
「何でわかるの?」
「私、一日中ここに居たからわかるの」
「それで何がわかるんだい?」
「だって、まだ手紙は送られてないから」
「ちょっとよくわからないな。どうして君にお父さんが手紙を出してない事がわかるんだい?」
そう言うと、少女は前に向かって腕を出し指差した。僕は、それを視線で追う。その先には、小さなアパートがあった。
「あそこお父さんの家なんだ」
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