第一章 少女と手紙、父親が涙を流す理由

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夜風が心地よく僕の身体をすり抜けていく。久しぶりに感じた夜の雰囲気を、僕は全身で受け止めていた。優しさと寂しさが融合した夜の感覚。僕はこの感覚が嫌いではないようだ。 それでも、心の片隅には引っかかるものがあった。 少女の事だ。 少女の為に何か出来ることはないのだろうか? 人と触れ合うことを退屈と思い、今まで避けてきたことを、今僕は、自ら正反対のことをしようとしている。 少女の長い人生の中の、一握りの人生の一部に、僕はなろうとしている。 色々考えながら歩いていると、さっき少女が座っていたポストを見つけていた。自然と、少女の父親が住んでいるという、アパートに視線がいく。 少女が教えてくれた部屋の前に、人が立っているのが見えた。薄暗く、街灯もあまり役にたっていないその場所でも、人影だけを見て、その人物が男性だとすぐわかった。 僕は、走っていた。何も考えずに走っていた。身体が勝手に動いたようだ。僕は、その男性の所に着くと喋っていた。 「す、すいません。ちょっといいですか?」 男性は、身を引き、驚いた表情を見せた。 僕は、自分でも気づかないぐらいに、全力で走っていたようだ。息が途切れそうになりながらも、言葉を男性に向けた。 「実は、娘さん。娘さんの事で話があるんですが」 最初、男性は警戒した顔を見せていたが、少女の名前を告げると、顔の力を抜き、ゆっくり僕を見つめた。 「娘の友達ですか? まあいいです。名前を知っているということは、娘に何らかの関係があるんですね」 「はい」と言い、僕はやっと息を整え始めた。 「ここで話すのもあれなんで、家にお入りください。それに、今日はなんだか外が寒い」 「ありがとうございます」 そして、僕は少女の父親の家の中に入っていった。
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