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『遠い日の記憶』
降りしきる雨。
辺りを包む宵闇。
周りに広がる死と血のにおい。
ここに残るは惨劇の爪痕。
その中に佇むは少女。
この場に存在するただ一人の人間。
「悔しいか」
響く男の声。
「……悔しい。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!」
少女は泣きながら訴える。男の胸倉を掴んでゆする。
「本当なのか! お前の言った事を、私は信用していいのか!」
「……あぁ、俺はやらなければならない。だが、そのためには力が足りない。だから、俺は提案する」
男は謳う。
「……俺と契約しろ、人間」
「それで、アイツを殺せるのか!?」
「殺せるか殺せないかじゃない。殺すんだ」
少女は一瞬だけ躊躇する。しかしそれはまさに一瞬。
「……わかった。なら、信じる」
「いい判断だ。……お前の名は?」
「カグラ。カグラ=リックスフォード」
男は笑う。
「俺の名はフェイウルク=ディズ=ウェルサーガ。……カグラ=リックスフォード、今、この瞬間より我が魂は汝と共鳴するものとなり、我が牙は汝と共に戦う刃となろう」
そして、一人の人間と一人の『昏きもの』の契約が、交わされた。
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