『遠い日の記憶』

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「だーぁぁっ! イライラする! フェイ、合ってんのか、この国で!」    どこにでもあるハンバーガーショップで叫ぶのは小柄な少女。  精悍な顔つきに大きいクリクリとした双眸、襟足でふたつに纏めた銀髪、それによく似合う頭が膨らんだ形の黒のキャスケット帽に動きやすそうなカーゴパンツ、灰色のパーカーと、恐らく普通にしてれば可愛い顔をしているのだが、今は機嫌が悪いせいでだいぶ台無しになっている。   「大声出すなよな。レディはもっと清楚にするもんだぜ」    それに突っ込みを入れるのは、着崩した黒いスーツにノー・ネクタイの白いシャツ、スポーツに用いられる浅黒いサングラスをかけ、顔の左半分に独特な刺青を施した男。髪が色んな方向に跳ねているのは、天然パーマなのかそれともそういう風にセットしているのか。   「うるせぇな……いい加減一週間も同じトコでなんもしなかったらそうなるわ」    男の説得なのかからかっているのかよくわからない台詞にも応じず、少女は荒々しく言いながらハンバーガーを食いちぎった。   「やれやれ……どうもウチのお姫様は気性が荒い」    その様子を見て男は疲れたように溜め息をつき、小声でそう呟く。   「なんか言ったか!」   「いえいえ何も」    少女がすごい剣幕で睨んでるのを気にも止めず男はおどけて言った。
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