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「えぇ!? ホントですか?」
驚いたコイルに、
「本当だ。……超スパルタだったけど」
軽くやつれた顔をしたカグラがそう言いながら部屋に入ってくる。
「でもまぁ、お蔭様で嫌でも鍛えられたけどな……久しぶり、ししょ――」
カグラの言葉を遮って、顔の真横を何かが通り過ぎる。『昏きもの』の突進にさえ対応したカグラが、反応できなかった。右頬に赤い筋が引かれ、そこから薄く血が滲み出る。
後方の壁が、その何かを受けてベコリとヘコんでいた。
「師匠とは言うなと……あれ程言ったのを忘れたの?」
ヘコんだ壁の真下には――何の変哲も無い金属のコップが落ちていた。ぶつかった衝撃でひしゃげてはいるが。
「う……忘れてた……久しぶり、ルシエ」
あの気丈なカグラが、小さくなっている。それ程ルシエには得も言われぬ迫力と威厳があった。
「フフ、久しぶり、カグラ」
そう言ってルシエは笑う。
しかし、その表情は見えない。長く伸びた前髪が表情を覆い隠しているからだ。だから、笑うのは口……それが独特な雰囲気を醸し出している。その顔のまま、ルシエは問う。
「それはそうと……今回はどうしてこの街に?」
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