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世間は戦争だ何だと忙しなかったが、彼女たちの周りには穏やかな空気が流れていたよ。
だが、難儀なことになぁ……彼女の国もついに戦争を始めちまったのさ。隣国と。
銃弾の雨。
絶え間ない爆撃。
周りは彼女に、その館を離れるよう言った。なんせ隣国との国境近くだ。どこよりも、戦禍に近かった。
彼女を慕う者たちはみな、何度も何度も、「そこは危ない」と、「絵ならどこでも描けるから」と、そう言って彼女を逃がそうとした。
それでも、彼女は頑として首を縦に振らなかった。
「己れが安全な場所にいながら、何が『平和』ですか!
傷付く者を差し置いて、私が安全な所でのうのうと『平和』を唱えるなどと、そんな恥知らずな真似が出来る訳もない。
私は、ここで彼らと共に戦います」
凛とした声で、彼女はただそう言った。
クピドかい? もちろん彼女のすぐ隣にいたさ。
ただ、彼には彼女が何を言っているのか分からなかったんだろうな。
そんな時でも、彼はただ、彼女をガラス玉の瞳で見上げていたそうだ。
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