電子人形(カレ)の記録

9/14
前へ
/18ページ
次へ
   そして、彼女は死んだ。  不運にも、自国の兵が撃った銃弾でな。  周りは泣きに泣いたよ。  ある者は彼女を撃った兵に怒り、  ある者は戦争なんかを起こした自国を憎み、  ある者は非情なカミサマに嘆き、  またある者は、自らの非力さに激昂した。  そしてその感情の全ては、表情1つ変えないクピドへと向けられたんだ。  あんなやつが傍にいなければ。  拾ってもらった恩も忘れて。  それ見たことか、表情1つ変えない薄情者。  やはり機械は『機械』でしかない。  日ごとに増していく誹謗中傷の数々。  それを全て受けても、彼の表情が動くことはなかった。  ただな、彼女を埋葬した時、整備士は彼の小さな独白を聞いたんだ。 「ヒトの言う『悲しみ』が、ボクには良く分かりません。  それは、ボクがヒトではないからでしょうか。  ただ、」  自らの胸にソッと手を当て 「ココに、ポッカリと穴が開いた気がします」  そう呟いたっきり、彼はボンヤリと石碑を見ていた。  彼の姿はまるで、道を見失った子どものようだったよ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加