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それが、整備士の見たクピドの最初で最後の変化だった。
その日を境に、クピドは消えたよ。何も言わず、何も持たずに、忽然と。
彼が消えてから、戦禍はますます激しくなった。
たくさんの人が死に、
たくさんの家が焼き払われた。
国中が、深い悲しみと無力さに満ちていた。
そんな中、一条の風に乗って、歌が響いたんだ。
始めは、誰も気にかけない小さな歌だった。
だけど、傷付き疲れたある兵士の胸に、その歌は優しく響いた。
それは、かの画家が愛した平和を願う歌だったから。
戦争ってのは、長引けば長引くほど兵たちから士気が落ちるもんなんだな。それが、終わりの見えないもんなら、なおさらだ。
その歌声は、傷付き疲れた兵たちの心に優しく響きながら、毎日毎晩聞こえていたそうだよ。
ある時は平和を願う歌を。
またある時は望郷の歌を。
優しく、穏やかに、ただ聞こえていた。
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