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彼女の譲らない姿勢に、ついに周りが折れた。
日に一度、クピドの様子を見に整備士を向かわせることで渋々了承したとのことだ。
その整備士は、彼女の古馴染みだった。
そして、クピドを修復する際に手を貸した人物でもある。
整備士から見た限り、クピドは周りが嫌悪するような奴じゃなかった。
やや達者な言葉遣いと、顔がやや人より整いすぎている以外は、普通の幼い子どものようだった、と。
クピドは、よほどのことが無い限り彼女の側を離れなかったと言う。
まるでインプリティングされたヒヨコのように、彼女の後ろをついていた。
彼女もけして彼を邪険には扱わず、いつもニコニコ笑いながら相手をしていて、それはまるで姉弟のような光景で微笑ましかったそうだ。
彼女は、彼に色々なことを教えた。
四季の移ろい。
世界の優しさ、美しさ。
時にキャンパスに世界を切り取りながら、
時に歌に想いを込めながら、
何も知らない彼に、彼女は唱え続けていた。
『平和』の貴さを。
彼はただ、そんな彼女を、ガラス玉の瞳で見上げていた。
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