其之一

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最初の頃は先生も熱心に接してくれた。 だけど、華魅があんまりにも優柔不断な上、やりたい事がないとか言うものだから、面倒にもなる。 華魅は勉強は好きじゃない。 でも、就職なんてパッとしない。 どこかに逃げられたらいいのに……。 なんてね。 「とにかく、進学するのか就職するのかくらいは決めないと厳しいぞ」 先生は眉間に皺を寄せながら言った。 それは、誰のための言葉なんだろう。 「はい」 素直に返事をしておく。 余計な悪い印象はつけないでおくべきだ。 「話はそれだけだ。もう戻っていいぞ」 催促だけして、話は終わった。 嫌な気持ちになりながらも先生に頭を下げる。 「失礼しました」 進路相談室を出ると、はぁーっと深くため息をついた。 進学か就職……。 そんな現実めいた言葉なんて嫌い。 でも、もう夢ばかり見てられないか。 教室に戻り、帰る支度を始める。 華魅の他には誰もいない。 静かな教室に、風が吹き抜けた。 その心地よさに目を閉じると、そのまま寝てしまいそうになった。 慌てて目を開けると、ハッとした。 「……え?」 華魅、何してるんだろう? ここは四階。結構高い。 華魅はその結構高い所の、窓の枠に足をかけている。 体重は、前。 もう後ろには戻れない。 ゆっくりと、華魅は外に放り出された。 「ーーッ!!」 声が出ない。 地面が刻々と近付く中、華魅の意識は遠退いていった。
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