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「約…束?」
眠兎はその場にメソメソと泣き崩れている優男を見据え、ありとあらゆる記憶を遡った。
だが、いくら遡っても、その優男との記憶は無かった。
在るのは、ひたすら戦う自分と、泣き叫び命乞いをしている名も知らぬ人間の姿だけだった。
眠兎は記憶力には自信があった。
だから、自信を持って言う。
「おい、お前は勘違いをしている。俺は確かに眠兎という名だが、お前の知り合いの眠兎じゃない」
言うと、さっきまで泣いていた優男が顔をあげて、此方を見詰める。
甘いマスクというのがしっくりくる顔は、涙を流していても甘かった。
だが、優男の顔は、泣くでも笑うでもなく、只、哀しい顔をしていた。
「…?」
眠兎は、何故優男がそんな顔をするのか解らなかった。
勘違いを解いてやろうとしているのに、何故そんな顔をしているのだろう?
意味が解らない、と。
「人違い?私が君を間違うわけが無いだろう!……私は凪だよ………忘れないって、約束してくれたじゃないか…」
凪と名乗った優男の顔には、絶望が浮かんでいた。
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