第一章

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「約…束?」 眠兎はその場にメソメソと泣き崩れている優男を見据え、ありとあらゆる記憶を遡った。 だが、いくら遡っても、その優男との記憶は無かった。 在るのは、ひたすら戦う自分と、泣き叫び命乞いをしている名も知らぬ人間の姿だけだった。 眠兎は記憶力には自信があった。 だから、自信を持って言う。 「おい、お前は勘違いをしている。俺は確かに眠兎という名だが、お前の知り合いの眠兎じゃない」 言うと、さっきまで泣いていた優男が顔をあげて、此方を見詰める。 甘いマスクというのがしっくりくる顔は、涙を流していても甘かった。 だが、優男の顔は、泣くでも笑うでもなく、只、哀しい顔をしていた。 「…?」 眠兎は、何故優男がそんな顔をするのか解らなかった。 勘違いを解いてやろうとしているのに、何故そんな顔をしているのだろう? 意味が解らない、と。 「人違い?私が君を間違うわけが無いだろう!……私は(ナギ)だよ………忘れないって、約束してくれたじゃないか…」 凪と名乗った優男の顔には、絶望が浮かんでいた。
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