旅立ちまでの三日間

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彼等が声のする方を向くと、そこには何時も彼がする優しい笑みでない、怒りがこもった黒い笑みをしたアルが立っていた。 「全く、家の中にまで普通絶音使いますか? ……おかげで、時間がかかりましたよ。一つ一つ部屋探して……」 「おい、てめえどっから入ったんだッ!? ちゃんと鍵は掛けただろッ!?」 そう言うのはこの廃屋に鍵を掛けた男であった。男は、アルに近づくと、アルよりも十センチ程高い身長で見下ろし、胸ぐらを掴み持ち上げた。 「どっから入ったか知らねえし、誰だか知らねえが、これを見た以上貴様には死んッ!!……」 「貴様には何ですって……?」 男がそれ以上喋る事はなかった。何故ならアルが男の顎目掛けて右足で上に蹴り上げ、そのまま天井をぶち抜いていってしまったからである。 それを見た、ミスティアは驚き、凄い……という感嘆の声を出した。 ロウは眉をひそめ、男達にやっちまえっ!!と命令を出すと、ズボンを履き、戦闘の準備を始めた。 「てめえ、何だいまの蹴りは!? 何者だ!?」 「何だと言われましても、ただの蹴りですよ。後私は、アルトマという名の旅商人です。」 「ふざけんな!! 商人がそんな強いわけねえだッガ!?」 「ここにいるじゃないですか……?」 アルは数メートル離れた所にいた小さく太った男に一瞬で近づき、力を入れた右の拳で、鳩尾にめり込ませると、そのまま前方へとその体を吹き飛ばした。 「……ぼさっとしてちゃ駄目ですよッ!!」 ロウ達は、吹き飛ばされた男に目がいってしまい、アルの存在を一瞬忘れてしまっていた。アルの声が聞こえ、ロウが再び目を向けると、そこにアルはいなかった。 「野郎何処だ……ガッ!?」 「おい、どうし……あぶッ!?」 ロウ達がアルを探していると、突然、一人は地面にめり込み、一人は右にふきとび、壁にけたたましい音をだして、隣の部屋に消えていった。次々と仲間が倒され、遂にはロウと仲間は二人になってしまった。 「おい、お前ら!? クソ、何処だ!! ロウさんどうしましょうッ!?……ロウさん?」 「……氷よ、我等の盾となり現れよ!! “アイスウォール”!!」 男がロウに焦ったように言うと、ロウは魔法の詠唱をしていた。そして、ロウが詠唱をし終えると、ロウ達の周りに氷の壁が出来上がった。その時、部屋の真ん中にキュッという摩擦の音とともに、前屈みの姿になっていたアルが現れた。
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