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突然だった。急に、見知らぬ男が間に割り込んで来た。何事かと口を開くまでもなく、少女に蹴りを入れた女性はその衝撃で胸を押され体勢を崩す。
「…なっ、何だお前は…!」
目線を微かに右斜め前へと移す。どんな身の程知らずが自分を押し入って来たのかと思い、飛び出して来たその人物を瞳に捉えた。
自分より数センチ程ばかり高いさして変わらない身長。水色のカッターシャツ、ネクタイ、通学鞄。
その容姿を見た女性 ――雄飛椿は面喰らった。何の変哲もない、男子高校生だったのである。
「貴女、何してるんですか。彼女の話無視して蹴飛ばす、…少し大人げないんじゃない?」
「…はぁ? 彼女ぉ?」
男の横を見れば、そこには尻餅をついたセーラー服姿の少女と、膝上に頬杖を付いて此方を見据える中学生の少年が居た。
「コイツに何か用でもあったのかよ」
桐はその時、初めて自分がした事に対して我に返った。考えなしもいいところである。
女性の質問に、何て答えれば良いか言葉詰まってしまった。この少女を助けたは良いものの、その後、つまりこれからどうすれば良いのか、と。
「別に…、僕はその……」
「まさか、…貴様もこの硝子を狙ってるのか…?」
「硝子?」
椿が顔を顰めてそう言い放つと、一瞬にして周りの人だかりはざわめいた。
目の前で殺気立ち睨み据える女性の姿に、桐はさながら首を傾ける。
硝子? 硝子なんて危ない物を、何の為に。
「何ですか、それ。よく分かりませんが、硝子なんてそんな物の為に出て来た訳じゃあ…」
そんな彼の否定の意を述べ終わる前に、椿の後方から一人の男が割り込む形で現れた。
「オイオイ、話が続きのままでこんな男出て来るなんて、全く聞いてねーぞ? つぅかよ、テメェは誰なんだってんだ!」
何と髪は銀色。シルバーの髪色など、今まで見た事ないくらい容姿に、今度は桐の方が目を見張る。見るからに今時のヤンキー、といった風貌であった。
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