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「今俺達は硝子について交渉してんだからよ、テメェは関係ねぇんなら邪魔すんな。部外者が口出ししたって仕方ねぇんだよ」
その発言に椿が一早く反応を示すと、軽く助けられた事が癪に障ったのか一度桐へ噛み付く様な視線を向けた。
そんな場で椿の睨み付ける瞳と絡み合うと、桐は何となく男の言った事も分かる気がして目を伏せる。
桐の隣では、先程蹴飛ばされた少女が静かに二方を見つめていた。
「それとも、アレか。……テメェに言ってんだよ、そこのガキ! この好機見て硝子を手に入れようってんじゃねぇだろうな。ああ゙?」
「は、…いやちょっと。だから、僕はつまり……」
口論を見ていられず仲裁しに割り込んだ少女の言葉を、彼等は聞く耳を持たなかった。自分より年下相手に注意をされるとは、聞いて呆れる。
彼女の気持ちをよく考えろ、言いたかった言葉はそれなのだが、その一言を何故か口に出す事が出来なかった。
そう慌てる桐を、椿は冷静な顔色で暫く注視していた。その瞳の奥は何かを探る様な重々しい光。
何か、可笑しい。―― 感情を読み取る事が出来ない。と、心中で呟いた言葉。浮かんだのはぼやけた思考だけ。
その後、椿から感じられた雰囲気が消え去ると、元のキツイ印象に戻り側に居た数人へ小声で話し掛けた。
「まぁ良い、今日の所は、ここら辺で見逃してやろーじゃん。――“刹那”の皆さんよ」
言われると、刹那と呼ばれた者達は安心した様に溜め息を付いた。と同時に、次はお前の番だ、と言うまでもなく椿は立ち尽くす桐の方へ振り向いた。
まさに殺意がたっぷり込められ飛ばされた目に、桐は嫌な威圧感を身に感じながら一歩後退る。
これでもかと言うくらい睨んでから、椿は素早くその場を立ち去って行った。
「はいはい、それじゃあ。――次は君だよ。そこの男子高校生」
その姿が見えなくなると、途端に人だかりの中で前方に立っていた一人の男が通常なら怯むくらいの瞳で睨み付けて来た。
しかし、そんな威嚇に怯む程に桐は動揺していない。こういった状況で、目の前に居る者達の様な輩とは何度か対面した事があるのだ。
それは彼の性格や身の上からか、僻みと言う感情を抱かれ、在り来りにも裏庭に呼び出され文句を付けられたり、とまさに典型的な体験から。
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