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そう遠い昔の事を思い出していると、黙り込んでいた桐へ又しても別の短気そうな男が近寄った。
「テメェ…何とか言ったらどうなんだよ!何で割り込んで来やがったって聞いてんだろうが…!」
「…………」
「おいおい…、質問してる人様を無視するとは…、テメェ良い度胸じゃねぇか。なぁ?」
「………」
桐は喚き散らす男を眺める中、それでも尚黙りこくる。向こうは彼の更に反抗的な態度により一層腹を立て、今にも飛び掛かりそうな酷い形相を浮かべていた。
『ナメてっと痛い目に…!』吊り上がった眉で言葉を紡いだ男に、遮る形で桐は呟いた。
「人に無視される気持ちは、どんなものでしたか?」
不愉快きまわりなかったに決まっている、と桐が付け足した発言に、男はわなわなと肩を奮わせ言葉を失った。
「…あんた等、最低の人間だよ。相手が意見を述べているなら、きちんと耳を貸すのが普通。…少なくとも僕はそう思います」
低く、単調な声色で桐は言い放つ。それくらいに許せる訳ない行為だった。いくら非常識と言えども、子供の、ましてや中学生の訴えを足蹴にするなど、許せる筈がないのだ。
許してはならない常識を超えた非常識。桐は、呆れに近い感情を抱きながら彼らを見据える。
と同時に、桐の制服の裾を軽く引っ張る者がいた。
それに気が付いたらしく瞬時に視線を後方へ下ろすと、そこには座り込む先程の少女。
「あ、大丈夫…? 此処は危ないから、君も早く逃げた方が…」
「喧嘩は、だめなのです…」
少女のか細く紡がれた一言に、彼は一瞬耳を疑う。
確か初めも、この公園で和解を求めていた時もそうだった。「喧嘩」といった単語に反応して暴力を振るう事を嫌うのには、何か理由があるのかも知れない。
そんな心情を察した桐は、淡々とした口調で告げた。
「それなら平気だよ。――僕も、喧嘩は嫌いだし、だから…」
逃げるしかないかも。
単純明快な桐の出した答えに、少女は目を見開いて笑みを浮かべる桐の顔を見つめた。
「何コソコソ話してんだよ!いい加減に…」
「悪いけど、僕らはこの辺で失礼しますね!」
そうと決まれば話は早い。
どちらともなく切り出された向こうの文句に言い返すと、少女の手を引いて桐は一目散に駆け出すのだった。
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